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合理的保証・限定的保証、どう使い分ける?(排出量第三者検証)

目次

  1. はじめに ~保証水準とは~
  2. 合理的保証・限定的保証とは
    1)概要

     ●合理的保証(reasonable assurance)
     ●限定的保証(limited assurance)

    2)なぜ保証水準を定める必要があるのか?
    3)コストが違う!
  3. 具体例
    1)合理的保証が必要なケース
    2)限定的保証を実施しているケース
    3)検証の種類を尋ねられるケース

    4)限定的保証から合理的保証へ
  4. まとめ

1.はじめに ~保証水準とは~

以前の記事で、第三者検証について解説しました。
【GHG排出量】第三者検証は必要?CDPスコアアップの視点も含めて解説!
【GHG排出量】第三者検証の進め方をISOに沿って解説!
    
(出典:環境省「温室効果ガス排出量の算定と検証について(ISO14064, 14065関連)」平成23年3月資料 2023年8月4日閲覧)

第三者検証の進め方で解説したように、検証においてまず最初に行うのが「合意形成」です。
そして、合意形成すべき項目の一つが「保証水準」です。 
保証水準とは、保証内容の信頼性の程度のことです。 

保証水準には一般的に「合理的保証」と「限定的保証」の2種類があり、どちらの水準に定めるのかを決めて合意形成する必要があるのです。

「保証水準、合理的保証、限定的保証…。わかったような、わからないような…。」
「合理的保証と限定的保証の違いは何なの?」
「概念はわかったけれど、それぞれの保証水準を採用するのはどんな場合?具体例を知りたい!」
この記事では、そんな疑問にお答えします!

2.合理的保証・限定的保証とは

1)概要

保証水準(検証をどこまで精緻に行うかの水準)には一般的に「合理的保証」と「限定的保証」の2種類があります。

  • 合理的保証(reasonable assurance)
    高い水準での保証。その主張が適正であることを積極的に保証。声明書文例 「(~主張の内容~)が適正であると認める。 」

  • 限定的保証(limited assurance)
    低い水準での保証。その主張が誤りがないことを消極的に保証。声明書文例 「(~主張の内容~)に誤りは認められなかった。 」

※「合理的」とは、「絶対的」の対比の考え方。
排出量は燃料使用量を把握するための計測器の精度等の技術的な限界が伴い、また、時間的・費用的制約から検証対象となるデータを全て精緻に検証することは難しい。このため、「絶対的な」保証ではなく「合理的」保証(すなわち真の値と比べ100%ではないが、制度目的を踏まえて十分に高い水準で適正であると認められる)を求めている。

(出典:環境省「温室効果ガス排出量の算定と検証について(ISO14064, 14065関連)」平成23年3月資料 2023年8月28日閲覧)

(出典:環境省「温室効果ガス排出量の算定と検証について(ISO14064, 14065関連)」平成23年3月資料 2023年8月29日閲覧)

2)なぜ保証水準を定める必要があるのか?

ここまでで、保証水準、限定的保証、合理的保証の概念を確認しました。では、なぜ排出量の検証において、保証水準を定める必要があるのでしょうか?

ISOの保証水準についての記載を確認してみましょう。

A.2.3.2 保証水準
 プロジェクト又は組織のGHGに関する主張に関連する妥当性確認又は検証プロセスの開始時に、意図した利用者のニーズを考慮して、依頼者が求める保証水準を確定する。保証水準は、結論を下すために、妥当性確認を行う者又は検証を行う者が必要とする信頼性の程度に影響を与える。判断、テストの実施、統制に内在する限界、及び定性的性質をもつ証拠などの要因のため、絶対的保証を達成することは不可能である。妥当性確認を行う者又は検証を行う者は、収集した証拠を評価し、妥当性確認又は検証の声明書に結論を表明する。 
 保証水準には、一般的に、次に示す二つがある。 − “合理的保証業務”− “限定的保証業務” 
(出典:JIS Q 14064-3:2011 (ISO 14064-3:2006))

検証機関が検証の際に判断を下す際、統制に内在する限界、定性的性質をもつ証拠などの要因のため、絶対的保証を達成することは不可能です。そのため、検証プロセス開始のまず最初の段階で、事業者(検証を受ける企業)のニーズを考慮して、保証水準を確定するのです。

3)コストが違う!

「限定的保証」と「合理的保証」はその保証内容が異なるだけではなく、必要となる「コスト」も違います。
検証内容の水準が高くなるということは、コストが高くなるということです。一般的に、高い水準の保証である「合理的保証」の方が、限定的保証よりも時間・労力・金銭面等において高いコストを要します。

3.具体例

1)合理的保証が必要なケース

検証対象の排出量をもとに金銭のやり取りが発生するような事項については、合理的保証が求められるケースが多いです。

2)限定的保証を実施しているケース

  • 企業のサステナビリティ情報(一部企業)
    環境情報開示が推奨される昨今、自社サイト等でサステナビリティ情報を公開している企業も存在する。その内、保証を付けているのは一部の企業。また、その保証水準の多くは限定的保証。
    限定的保証の実施数は記載されていませんが、日経225企業におけるサステナビリティ情報に対する保証の割合を、参考までに下記に掲載します。

    (出典:金融庁:第2回 金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(令和4年度)資料1(2022年11月2日) 2023年8月28日閲覧)

3)検証の種類を尋ねられるケース

  • CDP回答
    CDP回答時、以下の質問に答える必要がある。
    「(C10.1c) スコープ3排出量に対して行われた検証/保証の詳細を記入し、関連する報告書を添付してください。→検証/保証の種別 選択欄」

    (選択肢:該当なし、限定的保証、中位の保証、合理的保証、高位の保証、第三者の検証/保証実施中)
    (参考:CDP Climate Change 2023 Reporting Guidance

4)限定的保証から合理的保証へ

  • GXリーグ
    「全ての企業に合理的保証を求める」ことを目指すべき姿としてはいるが、さまざまな課題(※下記)が存在するため、現段階(第1フェーズ)では対象者により検証水準が異なる。(下図参照)
    算定・モニタリング・報告及び検証体制の構築の進捗度合いに応じて、合理的保証の対象を全企業へ移行することを目指している。検証機関のキャパシティや今後の企業側の体制もふまえ、「段階的発展」の考えの下で検討していく。

    (出典:GXリーグ 事務局「GX-ETSにおける第1フェーズのルール」(2023年2⽉) 2023年8月29日閲覧)

※【課題】
  ●排出量取引は⾦銭の取引を伴うため、企業が算定した排出量に対し、⼀定⽔準以上の検証が必要。
  ●他⽅、⽔準を上げすぎると、実務負担が増加する。
   ・合理的保証を要求すると検証機関によるサンプリング数や現地調査数が増加し、企業への負担が増加する。
   ・合理的保証に耐えうる排出量算定の内部統制を構築するのに準備が必要。
   ・日本での排出量の検証の担い⼿が少ない。

  • 米国の「 気候関連開示に関する規則改定案」
    GHG排出量(Scope1、2)については当初限定的保証を求めた後、追って合理的保証を求めるとしている。

(参考:経済産業省「第10回 非財務情報の開示指針研究会 資料 4」(2022年10月) 2023年8月28日閲覧)

4.まとめ

いかがでしたか。今回の記事では、第三者検証の保証水準(合理的保証と限定的保証)について解説しました。
必要な保証水準は、排出量算定の目的、算定結果公開の目的によって変わります。また、保証水準が変われば、検証コストも変わってきます。
排出量・削減量が経済的な取引の基礎となる制度などでは、「合理的保証」が求められています。その一方、サステナビリティ報告書等で公開するために自社の手法に基づき算定した排出量を検証する場合は、「限定的保証」を採用しているケースが多いです。
排出量算定の際にも「目的」を定める事が重要なポイントでしたが、検証の際も同じく「目的」を明確にすることがポイントです。算定の目的と、情報公開の目的を加味して、検証機関と共に検証の保証水準を定めたいところです。

まずは目的を明確にする。そこからスタートしてみてはいかがでしょうか。

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